◆◇◆ガウリイの場合◆◇◆

              どうやら、この洞窟らしいな・・・
              目の前にある洞窟は、木だのコケだの、その他よくわからん
              植物で入り口が埋まっている。
              洞窟がそこにあると知っておらず、注意力も無い人間には
              見つけづらいだろう。
              その前に、ガウリイ一人だけが立っていた。

              そう、今回は一人。リナは先ほどの森を抜けた所の街で
              待っている。
              「さっさと行って、剣とって戻るかな・・・」
              一人で行く、と言った事にリナが怒ってしまったのだが・・・
              剣を持って帰ったら、リナはどんな顔をするかな…?
              それで戦闘によるリナの怪我が減ってくれれば願ったり、だしな。
              ちなみに今ガウリイがもっているのは無銘の魔力剣。
              いい剣であることは間違いないのだが、どこまでの強さが
              あるのかはわからない。
              しかし、今回の仕事もとい、ゼロスからの妙な依頼。
              よく考えてみたら不審な点がある。
              何故、やつはこんな事をわざわざ頼んできたのか。
              「ま、それもそのうちわかるだろう」
              彼なりにまとめた所で、洞窟探検開始。
              暗い道でも人外魔境な彼である。松明すら持たずに進む進む。

              がさごそぼきっ!ごうぅぅぅん。ずどどどど。

              「・・・・・・あ〜あ、どっか罠でも作動させたかな」
              まいっか。
              あっさり諦め―――やおら、ダッシュで走り出す。
              どうやら彼も、後ろから迫ってくるでっかい岩には
              弱かったようである。
              「・・・って走っててもしょうがないよな」
              くりっ、と左足を軸にして回転、岩に向き直って剣を構える。
              「はぁぁぁぁっ!」
              すぱすぱすぱっ。がらごろ。
              「さって、行くか」
              訂正。単に軽く体を暖めたかっただけらしい。

              しばらく進むと道が二つ。迷わずに右へ進み、念のため
              曲がったほうに×点の印をつける。
              進んだその先には重たそうな扉が一つ。
              ・・・人の気配・・・一つ、か・・・
              誰もいないはず―――未踏のはずの洞窟には、
              どうやら先客がいたらしい。
              ・・・まぁ、ゼロスの持ってきた話だからな。
              相手はどうやらこちらには気づいてない様子。
              ならドアをたたっきって仕掛けるか。
              「はぁっ!」
              すぱすぱっ。がろんごろん。
              ホコリがたつ中を一気に駆け抜け、中にいた気配に向かって
              仕掛ける。気配は、扉の崩れる音に反応したらしいが、
              さすがにガウリイの速さにはついていけない。
              まっすぐ、剣を気配の咽元に―――
              ≪きゃああぁぁぁっ!?≫
              悲鳴が響き。
              「・・・っととっ!!」
              直前で剣を止めたのはさすがである。
              そこにいたのは、銀色に輝く美しい体の女性だった。
              ≪・・・・・・っ・・・・・・≫
              「あぁ、こりゃ悪かったな。てっきり魔族かと思ったんで
               攻撃しかけちまったが・・・」
              言って、あっさり剣を引く。完全に警戒を解いたわけではないが。
              ≪な・・・な・・・≫
              「ここに剣があるって聞いたんだが・・・どこにあるか知らないか?」
              ≪け・・・剣ですか?≫
              「そう、剣。魔力剣とか、言ってたな」
              その言葉に、女性はすぅ、っと息を吸い込んで言った。
              ≪では、あなたに質問です≫
              「は?俺に答えられるんなら答えるけど?」
              なんなんだ?俺に質問って。まさかリナのことどう思うか、とか、
              どこがかわいいか、とかって質問じゃないよな・・・
              うーん・・・リナって照れやなんだよなー、迂闊に手出したら
              すっげー赤くなってでもそこがまたかわいいんだよな〜、
              ちっちゃくってさ〜・・・
              妄想男の妄想は、脳神経が可能な限り果てしなく広がっていく。
              ≪・・・あなたの探し物は何ですか?≫
              「・・・へ?」
              ―――どうやら予想を越えた質問だったらしい。

  
◆◇◆リナの場合◆◇◆

              「ここ、よね。ゼロスが言ってた魔道具のある洞窟って・・・
               ふっふっふ・・・待ってなさい!
               あたしの魔道具、願い事!!」
              猛々しい雄叫びを上げ、植物に囲まれた入り口をくぐる。
              「『明り』よ!」
              剣に宿った魔力の明かりが辺りを照らす。どうやら一本道らしく、
              ゆるいカーブが続いている。
              「ふぅん・・・ま、どーせ罠がてんこもり、ってやつでしょーけどね・・・」
              願い事―――どんな願い事でも叶える魔道具、と
              ゼロスは言っていた。
              あたしの願い事はずばりっ!
              『胸が大きくなる事』。やっぱり、とか言わないよ―に。
              簡単にかなわないからつらいのだ。
              入り口から少し歩いた所には、落とし穴。紐をふんだら
              降ってくる槍。追って来る岩。吸血蝙蝠。ヒル。
              いるわいるわー、とまぁ、洞窟とかそーゆーとこには
              定番のやつら。
              「えぇいうっとぉしいいぃぃぃっ!!」
              地道に解除したり、剣で対応したりしてたがいい加減
              面倒になってきた。
              「『翔封界』」
              ひょう、っと風を切り、あたしはまっすぐ突き進む。
              うんうん、これなら余計な戦闘はしないですむわねー。
              さって、一気に奥まで行きますかっ!

              「わたたたたっ!?」
              急ブレーキをかけ、止まった先はおもそーな扉。
              ・・・って人が飛び始めた瞬間にいきなり扉が出てくるか!?
              全く・・・これだから最近の・・・じゃない、昔の洞窟は、
              って言われんのよ。
              ドアノブがあるが、真っ先に触る事はしない。大抵は、
              ノブに毒針が仕込まれていることが多いからだ。
              「念入りにチェック、しとかないとね・・・来るまでにも罠、
               結構あったし」
              手っ取り早く壊しちまえ、とか思ってる人は真っ先に死ぬから、
              こういった洞窟探検には向いていない。
              洞窟なんてものは、不安定な物。
              そんなもんを爆発させたら、自分が遺物となる。
              しばらくつっついたりしていたが、何も起こらない。
              「・・・なんだ、鍵はかかってないみたいね・・・」
              っぎぃぃぃぃ・・・
              きしんだ―――重い音をたてながらも開いたその向こうには、
              誰かの気配。
              「・・・先客が・・・?罠があったってのに・・・?
              はっ!?まさかそーするとあたしのお宝はもう取られた!?」
              それだけはなんとしてでも防がねばっ!!
              ここはとりあえず不意打ちで気絶とかさせて『気づかなかった』
              とでも丸め込めばオッケー!
              「『火炎球』っ!!」
              ちゅどんっ!
              ・・・ま、いくら爆発系呪文とはいえ、多少押さえたし
              大丈夫よね、洞窟。
              もうもうと煙溢れる部屋をこっそり覗き込んでみると、
              先ほどあった気配はどうやら直撃喰らったらしい。
              「うしっ!」
              ひどいと言うなかれ。全てはあたしの胸のため。
              ごそごそ気配に近付いたあたしは、その正体に驚いた。
              「・・・精霊・・・!?」
              むろん、精霊なんぞ見たことも無い。
              しかしそこにコゲてぷすぷすと横たわるのは、昔聞いた
              お伽話のような姿―――銀色に輝く、美しい女性。
              まぁ、今はちょーーっと黒いところもあったりするが。
              「・・・えーっと・・・とりあえず『治療』」
              しばし時が流れ。がばっ、と勢いよく起き上がる。
              ≪私を殺す気ですかっ!?あぁもう、これだから人間って
              ほんとに進歩のない野蛮な≫
              「やかまし黙って」
               ゑり。
              細く高い声で何か言ってる謎の女性に、あたしは
              遠慮なくアッパーをお見舞いする。
              「とりあえず聞くけど。あなた、何者?ここに来る途中の罠は
              全部作動してたし・・・しかも銀色で、人間じゃないわよね」
              ≪当たり前ですっ!全く、誰も彼も人を見たら攻撃してくるとは・・・
              一体どーいうしつけを受けたんですか!!≫
              「・・・どーいうって、こーいう」
              にっこり笑ったあたしの手には火炎球の輝きが。
              納得してくれたらく大人しく黙る彼女に、
              「で?あなたは何者?あたしはここに、魔道具があるって
              聞いて来たんだけど」
              ≪・・・私は・・・ここの番人のような存在です≫
              ―――なるほど。番人、ね・・・
              「それで、あなたはここに入ってきた者を排除するように
              言われてる、ってわけ?」
              ≪いえ、違います。私がするべき事は一つ。
              ・・・あなたに質問があります≫
              「何よ?」
              ≪あなたの探し物は何ですか?≫
              ・・・一瞬思考が停止した。

  
◆◇◆アメリアの場合◆◇◆

              「うーん・・・どうやら、あれが盗賊達のアジトのようですね・・・」
              やはりここは、正義にのっとって真正面から行くべきです!
              まずはこちらの名前を名乗ってから、とゆーのが
              正しい方法ですよね。
              ならば、中にいる盗賊たちに気づくような、派手な呪文を・・・
              「『火炎球』っ!!」
              ちゅどぼぉぉん・・・めらめらぼうぼう。
              植物にちょっぴり引火してるようにも見えるが、そこはそれ、
              正義の為の必要事項である。
              「アメリア=ウィル=テスラ=セイルーン、この地に正義を
               執行しに参りました!
               さぁっ!洞窟に潜み、善良なる人々を虐げる不届き者達よ!
               いさぎよく自らの罪を認め、出てくるのです!
               今なら、人々から奪った物を返し、セイルーンにてその罪を
               償うための無償の奉仕活動をすれば許してもらえる
               ―――はずですっ!」
              びしぃっ!っとポーズをつけ、入り口を指差し―――時が流れ、
              背後の火の勢いが強くなる音だけが響く。
              なんの反応も無い・・・と、ゆーことは・・・
              「・・・なるほど、これだけ言っても改心する気は
               無いのですね・・・わかりました!
               ならばこのアメリア、天と正義とセイルーンの名のもとに
               あなたたちに正義の心を焼き付けて差し上げます!」
              「『氷結弾』」<フリーズ・ブリッド> 
              ふしゅううぅぅ。
              「さて・・・山火事になる心配も消えましたし。
               父さん母さんに姉さん、今日もこのアメリアが一つの悪を
               滅ぼします・・・どうか守ってください」
              意味があるかどうかわからない祈りをあげ、洞窟に入っていった。
              「『明り』よ!」
              照らし出せば、中は以外に広い道。
              さて・・・うーん、やっぱりここは正義にのっとって右からですね。
              よくわからん理論展開ながらも、本人は納得しているらしい。
              しばし歩くが、周りは入ってきたときと全く変わらない。
              うーん・・・罠はどうやら無いようですし・・・
              ぐるぅうぅうぉぉぉぉおお・・・・
              どこからとも無く、何かの声が聞こえる。
              ・・・今のはなんでしょう・・・はっ!まさかこの私を倒そうと、
              動物でも放したんじゃぁ!?
              「許せません!罪をあがなうどころか、さらに新たな罪を
               作り出そうとするとは!!」
              ぐぐぃ、っと拳をかため。
              「すぐに正義の鉄槌をっ!」
              ちんたら歩いていてはますます彼らの罪を増やすのみ!
              ならば早期に取り押さえるが吉!
              たたたたた、と走り出す。
              ―――扉が・・・
              やって来た目の前には、古く、重そうな扉。
              なるほど。どうやらここに、盗賊たちがいるようですね・・・
              遠慮のカケラもなく、ばむっ!と開いたそこにはやはり、
              銀色の美しい女性が一人。
              ≪・・・あら、あなたは・・・≫
              なにやら言いかけた彼女の言葉を遮り、
              「ついに見つけましたっ!さぁ、あきらめて大人しく
               正義の裁きを受けるのです!」
              ≪・・・え?≫
              「いいですか!?何ゆえ盗賊などという、悪の所業を
               繰り返すのかまでは私は知りませんっ!
               しかし同じような行為を自分がされたら、と思うと
               どうするんですか!?」
              ≪いやあの・・・?盗賊って…?≫
              ぼーぜんと呟くが、呟く程度ではこの少女の『正義の説教』は
              止まらない。
              「そういえば、仲間はどうしたんです!?
               まさか逃がしたのでは!?
               それに先程、こちらの部屋に入る前、何かの動物の声が
               聞こえました!」
              ≪えーと・・・ここにいたのは私だけですし、動物の声というのは
               おそらく、私のペットじゃないかと≫
              「・・・あなた一人・・・?あの、仲間を庇うのは確かに
               すばらしいのですが・・・」
              ≪・・・ですから私は盗賊ではありませんっ!≫
              とうとう耐えられなくなったか、声をあげる銀の女性。
              「・・・はい?」
              きょとん、とした表情でその言葉を飲み下し。
              「あぁぁぁぁっ!!騙されましたぁぁぁっ!!」
              洞窟中に、声が響き渡る。
              ≪・・・もしもーし・・・あの・・・騙された・・・って・・・≫
              「こうしてはいられません!すぐにでもゼロスさんを探し出し、
               清純なる乙女の心をもてあそんだ罪を償ってもらわねば!」
              ≪いやあの・・・あなた、何をしにここに来たんですか、一体・・・≫
              「ここに人民を困らせる盗賊がいると聞いたので、彼らを
               正しき道へと導くために来たのです!」
              ≪・・・そ・・・そうですか・・・まぁ、いいですが・・・≫
              息を整え、彼女は言葉を続ける。
              ≪では、あなたに質問です≫
              「え?質問ですか?なんでしょう?」
              ≪あなたの探し物は何ですか?≫

  
◆◇◆ゼルの場合◆◇◆

              「ここか・・・写本があるにしては、えらい貧弱な洞窟だが・・・
               ま、あのゼロスが見つけたものなんだし、本物だろうが・・・」
              誰かが入ったような痕跡のない古い洞窟である。
              「結界がどうとか言っていたが・・・魔族が入れないということは、
               神族の結界なのか・・・?」
              くねくねと、曲がりくねった洞窟内部に響く音。
              ぴちょん・・・ちょん・・・
              どこか、水でもわいているんだろうな・・・
              妙に開けた場所に出て、目に映ったのは―――
              大量の水。
              湖、と言ってもいいくらいの大漁の水である。
              「なんで・・・こんな所に・・・?水脈があったとは・・・」
              ぽつりと、もらした言葉に反応したかのように突如、
              水が大きくうねりだす!
              「なっ・・・!?」
              ここは引くか・・・!?いや、勢いが速い!
              ざっばぁぁぁあん・・・
              「俺はカナヅチな・・・ガボっ・・・ガフ・・・」
              そして、俺は気を失った。

              ≪・・・・・・≫

              ぅ・・・ここは・・・?
              目が覚めた場所は、結構開けた場所。
              かなり流されたらしく、水の音は全く聞こえない。
              「・・・そこにいるのはわかっている。
               気配を隠すつもりがないのなら出てきてもらおうか?」
              ≪どうやら目が覚めたようですね≫
              響く声は女性のもの。かといって油断は禁物である。
              「まぁ、な」
              いつでも攻撃できる体勢にさりげなくかえる。
              ≪警戒しなくても大丈夫ですよ。あなたに用があって、
               ここまで連れてきたのですから≫
              「―――あんたが?そりゃ、すまないな。で、俺に何の用だ?
               用があるなら姿くらいは見せてくれてもいいんじゃないのか?
               姿も見せん相手の用なんざ、受ける気は無いんでね」
              まぁ、俺も人の事をどうこう言えるような姿ではないが。
              進み出てきたのは、どことなく威厳を漂わせている、
              銀色に光る女性。
              「一応言っとくが、俺はここに用があって来た。
               だからここから出て行け、という用なら断る」
              ≪・・・私はここの番人のような存在です。番人と言っても、
               ただいるだけのような存在ですけどね≫
              なるほど・・・クレアバイブルが存在する場所には、
              それを守る番人がいるのだろう。
              「―――それで?」
              ≪あなたに質問があります≫
              「質問・・・?」
              いぶかしむゼルにかまわず、彼女は言葉を続けた。
              ≪あなたの探し物は何ですか?≫




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