願〜2





昨日中納言家にいた少年・・・・?
視線の先には、熱烈に少女に愛の言葉を投げていた。
しかし、女性の方には聞く気がないらしく
先ほどから迷惑そうに少年を一瞥して冷たい視線と言葉を返している。

「ああ・・・愛しのミリーナ。今日も綺麗だぜ。」
「戯言を言っている暇があるのなら、ルーク・・・和歌でも作ったらどうです?」
「おおおおおお!!!!ミリーナ!
  やっと俺のミリーナへ捧げる愛の和歌を受け入れてくれるのか!?」
「迷惑です。」
「ミリーナ〜〜〜〜〜〜〜!!!!」


ルークは空しく壁に向かってぶつぶついじけ始める。
見なかったことにしよう・・・・・
ガウリイはそう判断すると
この場からゆっくりと立ち去ろうとするがそれは許されなかった。
「晴明。友が気を落としているのを見捨てるのはいかんぞ。慰めてくるんじゃ。」
「ま・・・待てよ!!じーさん!!!」


どん!!!


そのままガウリイはルークにぶつかることになる。
じーさんのやつ・・・・
「やっぱりおめー内裏に通っているんだな!?
 頼む!俺のミリーナへの愛のために、自由にここに出入り出来るようにしてくれ!」
愛のためってなぁ・・・・思いっきり振られていたくせに・・・
おまけに、中納言家の息子なら参内する時に限って入れるじゃないか・・・・
「あああ!!てめー見捨てる気か!?
  あああ、愛しのミリーナ。俺は障害なんかに負けないぜ!」
誰が障害だ・・・誰が・・・・
早々にこの場を立ち去るのが良しだな・・・







―――――――――・・・・・・・・・・・・・・・・・・





「いい加減にしてくれないか?」
「いいや!お前が協力したら済むことだ!
 愛しのミリーナv俺は障害を乗り越えて見せるぜ!」
いい加減にしてくれ・・・・・
先ほどから延々と俺をつけてくる奴に頭痛が感じられた。
ミリーナという女性との接点がおそらくこの内裏だけであろう。
しかし、父親の力を使えばある程度内裏に出入り出来ると思うのだが・・・・・
「親父なんかの力を借りたくないんだよ。」
「つまり、それを俺に何とかしろと・・・・・
   判った・・・それなりにやってやる・・・・」
「よっしゃぁあああv愛しの麗しき女神――ミリーナ!俺は障害を乗り越えたぞv」
さぞかし迷惑だと俺に訴えてきそうだな。
早まったかもしれない。
俺に頭痛を与えた人物を垣間見ると案の定ミリーナ嬢への思いを語っていた。
「さてと、俺に協力してもらうぜ!!」
「・・・・・・・・で、何をやればいいんだ?」
「ミリーナのような美人で気立てのいい女性はこの世に存在しない!
  ということは、必然と狙われるってことだ!!!
 そこを俺がミリーナを守り二人は恋に陥るのさ♪」



―――――――――やっぱり、関わった俺が馬鹿だったな。
なんというか、情けない。尻に敷かれるやつだな。
リナに関しては自分も頭が上がらないにも関わらず
自分のことを棚にあげて淡々とルークを観察しているガウリイであった。








「ふっふっふ・・・・ガウリイ!協力感謝するぞv
  あ〜愛しのミリーナ!俺はお前の愛の奴隷なのさv
   ミリーナ、お前のことは絶対に守りとおすからなv」
愛の奴隷・・・・・・
迷惑極まりないだろうな・・・・本人は・・・
その後こいつのミリーナへの愛を聞かされた俺は、どっぷりと疲れた。
何しろこいつは、俺が与えられた部屋に無理やり泊まりこんだのである。
陰陽寮は陰陽師や弟子に、個室を与えている。
おまけに出入り口付近が見えるため誰が去っていくか簡単に見える。
――――で、こいつはミリーナ嬢が帰るのを護衛したいためその瞬間を待ち望んでいるのである。
内裏に出入りするような者には
護衛などついているにも関わらず・・・・・


「くぅv早くミリーナ出てこないかなv
  しかし、さすがは俺のミリーナだよな。
  年齢は幼いにも関わらず、検非違使(けびいし:警察のようなもの)だなんてなv
 俺も勉強沢山やらないとな♪そう思うだろ!?ガウリイ・・・って?いない。」

ミリーナに関することを聞いてくれる人物がいなくなっていたため
空しくなり彼は、再び外の方へ視線を向ける。














いい加減ルークに付き合うのが疲れたため外の空気を吸いに出る。
朝からルークに付き合わされていたため、時間感覚がどうも狂った様である。
辺りは、夕暮れ時と通り過ぎぽつぽつと火の光だけが照らす光のみになる。
ゆっくりと風が通り過ぎ、その中から異質な代物を感じ取る。



「よぉ・・・」

――――鬱陶しい。後ろには俺が感じ取った通り数人が立っていた。
昨日の兄弟子たちである。
また、厄介な代物に手出しをしたようである。
陰陽寮が禁術、邪法、巨大すぎる力、妖魔などを
封じるために造りあげた蔵にあるはずの代物が握られていた。


「呆れて何も言えんな・・・それに手出ししたら、死刑決定だぞ。」
「なに、お前のせいにすればいいことだ。」
「冗談じゃない。」
「言いたいことはそれだけか!?」
やばいな。さすがにあれを持ってこられるとはな・・・・・
じ―さんの言うとおり無闇に敵を作るんじゃなかったなぁ・・・・正直に言ったまでだが・・・
「これは、立派な妖怪退治だからな。
  内裏の連中はお前に化かされているんだから俺たちに感謝するだろう。」

あ〜あ。やっぱり、今の俺じゃあ対抗出来ないか・・・・
やつらが手にしているのは、体の自由を奪う代物である。さて、どうしたものか・・・
段々と麻痺していく頭と体を何とかしようと術を試みるがどうしようもない。
遠くからルークの叫び声が、かすかに聞こえたような気がしたのだが―――――
ここで俺の意識が途切れた。
















「くっ・・・・」
頭痛する頭をどうにかして起こす。
兄弟子たちが手にしていた自由を奪う代物である矢が俺の傍に突き立てられており
ご丁寧なことに、俺の手足を縛りあげ呪符を古屋敷のいたるところに張り巡らせている。
隣には、ルークが俺と似たような形で縛られていた。
どうもこいつを巻き込んでしまったようである。
仕方がないのでどうにかしてこいつを殴りつけると意識を取り戻し俺に抗議を始める。
「いて――な!容赦なく殴りつけただろう!?てめ――!!」
「五月蝿い。静かにしろ。」
「そういや・・・・火の臭いがしないか・・・・?」
「ぐ・・・・・・」
まずい!!やつらこの屋敷に火をつける気か!?
ルークの指摘の通り屋敷の四方から焼き焦げた
臭いが立ちこめ二人がいる場所に煙が入ってくるのに時間がかからなかった。
「くっ!!どうにかしてここから脱出することを考えるぞ!あいつら何考えてんだ!!」
「それは同感だが・・・・・この状況ではな・・・
 それにまた、思考の邪魔をする呪符が効き始めてきた・・」
「ぐっ・・・・意識が・・・・」
符の効果によってまともな思考回路が遮断される。




―――――リ――――ナ――――・・・・・・・・











「ああぁぁぁああぁぁああああ!!!」
「リナ殿!?」
「姫様!?」
リナの叫びに慌てて
姉であるルナや女房たちや賀茂保憲(かものやすのり)が諌めようとするが全く効果がない。
「やぁぁあああぁぁあ!!」
「リナ殿!落ち着くんだ!」
「こわい!こわい!
  お金の色の髪をしたお兄ちゃんが縄で縛られて!
 外には沢山の火がついている!!こわい!!!!!!!」
「まさか・・・!?晴明・・・か!?」
リナの言葉に感づくものがあった彼は
慌てて式神を作り晴明を探そうと一枚の呪符を取り出すが――――
辺りが金色の光に包まれる。光は直に収束しリナの前に鏡が宙に浮いていた。
「な!?これは――――八咫鏡(やたのかがみ)!蔵に封印してあったはず!?」
八咫鏡(やたのかがみ)と呼ばれた鏡は収縮された金色の帯を一気に外へ放出する形で光出す。












な・・・・なんだ?
意識が戻ってきた。だけどやばいな・・・・
辺りは火で覆われているから――――脱出するのは――――
自分でも何をやったのか判らないが――――
どこからか力が加入し、生きたいその意志が俺とルークを外へと持ち上げる。
「は・・・・?」
どちらがあげたのだろうか?
俺だったかもしれないが、何が起こったのかわからずにただ間抜けな声を出た。
暫くして外に出されたことを理解し周辺を見渡す。
遠くから師たちの声を聞きほっと胸を撫で起こす。ルークには少々悪いことをしたな。
これからは俺を避けることに――――
「お前が助けてくれたのか?それなら、ありがとうな!
  俺はミリーナを一生守りぬく決意をしているから、こんなところで死ねないからな。」
「・・・・・は?」
「お前言葉が理解出来ないのか?」
「・・・・・何故、礼を言うんだ?お前は巻き込まれたんだが・・・」
「人の話を聞いてないのか?お前は・・・・
 ミリーナのためvに死ねないから、助けてくれてありがとうっていってんだよ!」
「いや・・・巻き込んだのは俺だからな・・・・」
「それがどうした。お前にはこれからたっぷりと俺に協力してもらうぜ。ミリーナのためにv」
――――――何処までもミリーナ一筋だな。
これからも振られつつもミリーナに告白する
やつの未来予想図を頭に描くと哀れで面白いものがある。


そして――――彼の心使いにも感謝した――――







「晴明!!」
「じ―さん。こっちだ。」
「無事でよかった。中納言殿の息子もご一緒だったのか。これは大変なご迷惑を。」
「いいてことよ。無事だったんだからな。それよりも俺のミリーナが心配だ!早く内裏に戻ろう!!」
ルークは迎えにやってきた牛車に乗り込むため茂みを駆け出す。
それを暫し見送ってようやく俺も足を動かそうとしたときじ―さんに引きとめられる。
「今回の一件で馬鹿なことをした連中は、陰陽寮で処罰した。ところで―――――――」



自分の耳を疑った。




「リ・・・・ナ・・・・が?」
「ああ。蔵に保管されていた
 あの大神の鏡―――八咫鏡(やたのかがみ)によってお前たちは助かったのだ。
 リナ殿を主と認めたため、鏡がお前たちを助けたんだ・・・・・・」


守るとか言いながら、最終的には助けられているのはやっぱり俺なんだな・・・・
心の中で苦笑しつつリナを守れるように強くなりたい。
「じ―さん。もっと陰陽について教えてくれ。」
「教えてくださいじゃろ・・・全く・・・」


陰陽師になるなら絶対にリナを守り通すほどに――――――











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